蒼穹の昴


浅田次郎/講談社
上下巻


 貧しい少年が宦官となり、出世をしていく物語です。貧しい家に生まれ、父や兄を失い、乞食同然の糞拾いをして家族を養う春児(チュンル)。家族が飢えなくてすむように、その一心で宦官となることを春児は決意します。自分のためではなく、家族のために。この決意から泣かされます。家を出る春児を追いかける妹・玲玲との別れが本当に切ないです。

 物語は上下巻でかなり長いのですが、途中で何度もドラマチックな展開が待ち受けているので飽きさせません。好きだったのは、春児が宦官として出仕する為の修行に明け暮れるところからお師匠様が亡くなってしまうくだり。春児を宦官として育て上げたのは、たくさんの失脚した元宦官たち。彼らが本当に春児を愛し、春児に自分の叶えられなかった夢を託したというのが伝わってきて、すごく好きなんです。その厳しい修行に耐え、宦官として一流の技術を身につけた春児が、どんどん人に認められてしまうのはしてやったりという感じで読んでて気持ちよかったです(笑)。宦官というのはどうも卑屈であったり卑怯であったり、汚職にまみれていたり、本当に良いイメージがなかったのですが、もしかしたら本当にこんな人もいたのだろうかとイメージが変わりましたね。
 あと春児を他の宦官たちが守ろうとするところ。春児を他の宦官たちは命を捨てでも守ろうとします。そうさせたのは、彼らもまた夢を託したから。宦官になろうとしたのは確かに裕福になりたいという気持ちからだけど、宦官になり出世して腐敗していく人々の中で私欲を持たず、男としての誇りを失わない春児は確かに稀有な人物だったのだろうと思います。
 そしてラストですね。今までの堅苦しい言葉を捨て、自分の言葉で西太后に語りかける春児と、それを静かに見守る西太后の姿が切ないけど穏やかで印象的でした。この作品は今まで持っていた西太后のイメージも覆してしまいました。ただ清国のためを思って自分の人生を費やした西太后。けれど、彼女の周囲の人間によって全く思惑とは別の道を進まざるを得なくなる。歴史の中の闇の部分を目の当たりにして読んでて辛いです。でもその為に、国民の為を思って権力を手放さなかった西太后、その西太后に尽くす春児、同じ目的の為に革命に奔走する進士たち、登場人物のひたむきな姿に余計に心打たれました。

 私は中国史に本当に疎いので、理解しながら読むのにかなり時間がかかってしまいましたが、とても読み応えのある作品でした。歴史に多少疎くても、登場人物たちの思いに泣かされるという感じです。



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